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コパトーンの香りはあらゆる夏のすべての思い出

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 コパトーンはセンチメンタルだ。夏の陽焼けは、秋の風とともに消えていく。容器のなかにおそらく半分はまだ残っているコパトーンは、メディシン・キャビネットのいちばん端に置かれて、自分の季節が過ぎ去るのを見守る。キャップにきざんである細かい溝に、あの海岸の白い砂がすこしだけついているのを、たとえば十一月なかばにふと見るのは、せつない。

 ボトルを手にとり、キャップをはずし、匂いをかいでごらん。コパトーンの香りのなかに、夏の思い出のすべてが充満している。ありとあらゆることを、いっきょに思い出す。香りの主体はジャスミンだということだが、ぼくには夏の香りのエクストラクトとしか思えない。番号で言うと、ダーク・タニング・オイルの2番、ミディアム・プロテクションの香りが、ぼくはいちばん好きだ。夏とか海とか入道雲とか、とにかく夏のすべてが一瞬のうちに頭のなかによみがえるあの香りは、センチメンタルオイルの香りだ。

 もとをただせば、コパトーンは戦争の香りだと言っていい。1944年、日本軍と戦うアメリカ空軍の飛行機乗りたちのために、ドクタ・ベン・グリーンが開発した陽焼け止めローションが、コパトーンのはじまりだ。撃墜されて太平洋上を漂う空軍兵士たちにとって、火傷となんら変わらないすさまじい陽焼けから身を守るものとして、陽焼け止めローションは必需品だった。

(2016年11月28日掲載、『彼らと愉快に過ごすー僕の好きな道具について』1987年所収)

今日の1冊

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秋時雨|片岡義男

吹き付けるような秋時雨の中を2台のクルマが走っていく。夜もかなり深い時間だ。
2台には男女が2組ずつ。合計4人。「大陸から日本海を渡って、風が吹いてくる。冬の季節風のはじまりだ」

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11月 1987年 『彼らと愉快に過ごす──僕の好きな道具について』 アメリカ コパトーン 戦争
2016年11月28日 05:30
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