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「過去の栄光にひたる」を英語で言えますか?

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凧揚げにまつわる基礎英語

『ピーナッツ』の日めくりカレンダーを今年の1月なかばから使っている。今日はすでに桜の満開を過ぎた。1日ごとに切り取るカレンダーは捨てるにしのびないから、オリジナルの箱に1枚ずつ入れている。

 チャーリー・ブラウンのkite-eating treeについてはすでに書いたと思う(→「スヌーピーの漫画『ピーナッツ』全集は読むだけでライフワークになる」)。

 kite-eating treeとはいったいなにかとルーシーに訊かれたチャーリーは、上げていた凧が高度を下げて樹の上に落ちて紐が枝にからまると、凧は何日かそのままそこにあるのだが、ある日のこと、忽然と消えている現象のことだと、ルーシーに語る。

 This tree eats my kite.「この樹が僕の凧を食べるんだよ」とチャーリーは言う。

 枝をのばして凧をつかみ、口に入れて食べ、フライド・チキンの骨を僕たちが吐き出すのとおなじく、凧の骨に使った細い木材を吐き出すんだ、とまで彼は言う。冬のあいだこの樹は凧をひとつも食べていないから気が立ってるんだ、気をつけなよ、とも彼はつけ加える。

 凧はうまく上がったとしても、いつかは必ず落ちて来る。チャーリー・ブラウンの場合は、樹の上に落ちるのだ。

「凧が上がった」は My kite is up. と言う。「上がったままでいてくれ」は、Stay up. でいい。「凧が落ちて来る」は、It’s going down. だ。

 凧上げの基礎英語をチャーリー・ブラウンに日めくりのなかで教わった。

 春になると野球のシーズンが始まる。

 チャーリー・ブラウンのチームはシーズン最初のゲームに負ける。Rats! と彼は言う。「ちぇっ」よりは強い。「ちきしょうめ」あたりか。おなじ言葉をライナスも1回使っている。Good grief! はスヌーピーとルーシーが1回ずつ使った。チャーリー・ブラウンからはまだ出ていない。

 チャーリー・ブラウンのことを Chuck と呼んでいるペパーミントパティは、ホゼー・ピータセンという小柄な子供を彼に紹介する。

 ホゼーは野球がうまい。打たせたらほぼかならずヒットだし、彼に二塁を守らせたら、ショート・ストップのスヌーピーといい連携プレーが出来そうだ、とパティは言う。チャーリー・ブラウンの野球チームですでに二塁を守っているのは、誰だか知ってますか。

カタオカさんに英語を教えたのは誰?

 4月7日の四コマでは、スヌーピーがフライを口で捕る。そしてピッチャーズ・マウンドにいるチャーリー・ブラウンのところへ持っていく。

 このときの彼の台詞を僕が仮に翻訳するなら、次のようになる。「唾をつけたスピット・ボールはルール違反だけど、よだれが垂れているdrool-ballというものは、いま初めて見たよ」

 スヌーピーが口で捕球したヒットを、そのままくわえてチャーリー・ブラウンのところへ持って来たから、そのボールには垂れるほどによだれがついていた、という四コマだ。

 4月8日・9日の土・日の四コマでは、チャーリー・ブラウンのチームは野球の試合をしている。ごく平凡なフライが上がり、スヌーピーのすぐうしろに落ちる。簡単に捕球出来たはずだが、スヌーピーは動きもしなかった。ボールが地面に落ちてもまだ動かない。守備位置に立ったまま彼は眠っていたからだ。

 動きもしないスヌーピーを叱ろうとしてチャーリー・ブラウンがマウンドから降りて来る。スヌーピーがじつに気持ち良さそうに眠っていることに気づいて、彼は言う。

「こんなに安らかに眠っている内野手を起こす気にはなれない僕は、いい監督ではないね」

 スヌーピーの赤い小屋の屋根の上に、スヌーピーがあお向けに寝ているとき、彼の耳はどうなっているか知っていますか、という問いがあるなら、僕は正解することが出来る。屋根のスロープの上に、左右一本ずつ、彼の耳はまっすぐに垂れている。

 やっとチェンジになり、さあ、何点か入れよう、とチャーリー・ブラウンが言っても、スヌーピーは守備位置に立って眠ったままだ。

 そのスヌーピーには吹き出しがひとつつけてあり、そのなかにはZのひと文字が書いてある。Zはいびきの擬音であり、ここでのZのひと文字は、眠っている、という意味だ。

 そのようなスヌーピーを、緊張感に影響されないプレーヤー、ととらえたチャーリー・ブラウンは、A player who isn’t bothered by tension. と表現している。Is(あるいはisn’t)bothered by tensionという言いかたは覚えておくといい。

 チャーリー・ブラウンには英語をずいぶん教わった。カタオカさんに英語を教えたのは誰ですか、ともし訊かれたなら、それはチャーリー・ブラウンです、と答えたいほどだ。

「対面して」と、英語で言えますか。Face to faceと言えばそれでいい。

「やりたくはなくても、ばっさりやらなくちゃいけないことだって、あるんだから」という台詞は、仕事を中心にした日本の日常生活のなかに、いくらでもありそうだ。英語ですんなりと言えるだろうか。チャーリー・ブラウンは次のように言っていた。

 I hate to do it. But some problems call for drastic action.

 日本語では「ばっさりやる」という動詞表現になっている部分が、英語では「思いきった、きびしいアクション」という名詞表現だ。

「過去の栄光にひたる」というような日本語を英語にしなくてはいけない日が、明日にでも来るかもしれない。チャーリー・ブラウンを友だちに持っていれば、心強い。彼は、Re-living the past glories. という言いかたをしている。Re-live は liveの活用形だと思えばいい。Liveの範囲内に人はいる。

 Re-liveという言葉をこんなふうにあっさりと使ってしまう英語と、「ひたる」という独特な言いかたを新たに習得し、使っていい状況のなかで正しく使うことを身につけなくてはいけない日本語とを比較してみるのも、一興だろう。

「過去の栄光」に関しては、まるでどちらかを翻訳したかのように、英語と日本語はよく似ている。ただし英語では、「栄光」が複数あるものとして、とらえられている。

チャーリー・ブラウンの神髄を感じるひと言

 この四コマを見たから今日という日はこれで充分だ、と気持ちがたいそう満たされることが、『ピーナッツ』を読んでいると、たまにある。2月22日の四コマがそうだった。

 ライナスがプラカードを持っている。Help stamp out things. と書いてある。日本語にするのは難しいが、「そういうものの撲滅に協力を」とでもすればいいだろうか。

 このプラカードをルーシーが見る。例によってルーシーはひと言ある。「そんな一般論では駄目よ、もっと具体的に書かなくては」とルーシーは言う。

 彼女の忠告を聞き入れたライナスが、最後のコマでかかげているプラカードには、次のように書いてある。

「撲滅しなければならないものの撲滅に協力を(Help stamp out things that need stamping out.)」

 撲滅の対象は、撲滅しなければならないもの、なのだから、これ以上には具体的に書きようがない、というライナスの理論だ。

 3月28日は学校の教室のなかだった。チャーリー・ブラウンのうしろの席にライナスがいる。I almost got an “A” on my spelling test. と言うライナスは、一語だけスペリングを間違えた。彼が正しく書けなかったのはcucumberの一語だけだった。

 それに対してチャーリー・ブラウンが次のように言う。

「Cucumberのような言葉は、misspelledで当然だよ」

 よくありそうな間違いは、cuecumberだろうか。しかし正しくは、最初のuのあとにeはない。チャーリー・ブラウンが言うとおり、cucumberは確かにちょっと変わった言葉だ。Misspellは日本語だと僕はずっと思ってきたが、チャーリー・ブラウンが使っているからには、れっきとした英語なのだ。

 4月12日のコマのチャーリー・ブラウンは、「なにか困った問題があったなら、すぐに解決すべきでしょうか、それともしばらく考えてからにしたほうがいいですか」と、ライナスに訊かれる。

 チャーリー・ブラウンの返答は次のとおりだ。

 I believe you should think about it for a while.

「しばらく考えたほうがいいと思うよ」という、チャーリーならではの知恵だ。日本語では、「と思うよ」と軽く言っている部分が、英語だとI believeとなっている。「しばらく考えたほうがいいと信じるよ」とは、日本語では言わない。

「正しい解決のしかたをするために、それなりに時間をかけるんだね」と、ライナスは解釈する。問題はそこで解決しているはずだが、「それは違うよ」とチャーリー・ブラウンは言う。

 なぜ、それは違うのか。チャーリー・ブラウンの神髄を、次のようなひと言で彼は披露する。

「しばらく考えているうちに、困った問題が、どこかへ消えてなくなるようにさ」

スヌーピーに「ちくしょう」と言わせた人物

 4月13日の最初のコマで、This is a hard world to get along in. とルーシーが言っている。「住みにくい世のなかね」という意味だ。どうなふうに住みにくいか、ライナスにとっての一例が、4月14日の四コマで描かれている。

 その日のライナスは『不思議の国のアリス』を読んでいる。グリニング・キャットのところにさしかかっている。一匹の猫が樹の上にいて、にやにやと笑っている。次第にその猫の姿が消えていき、最後には、にやにやと笑っている口だけが、樹の上の空中に残る。この猫はチェシャイア・キャット(Cheshire cat)と呼ばれている。

 そのライナスがふと自分の脇を見ると、歯を出してにやにやと笑っている口だけが、空中に浮かんでいるではないか。心の底から驚いたライナスは、髪が総立ちになる。

 空中に浮かんでいるにやにや笑いの口は、スヌーピーのものだ。「もう何年も前から出来るよ。単なる条件反射だよ」と、スヌーピーは言う。

 4月18日の四コマもじつに愉快だ。赤い小屋の屋根にスヌーピーがうつ伏せで寝ている。そこへライナスがやって来る。スヌーピーは歯を出して笑い、三コマ目ではにやにや笑いの口だけになる。口だけが赤い小屋の屋根のすぐ上に浮かんでいる。ライナスは不思議そうにそれを見る。

 四コマ目でライナスは、「チェシャイア・ビーグルというものは見たことがありますか」と、ルーシーに訊いている。ビーグルはビーグル犬のことで、走るのが早く、長い両耳が垂れているのが特徴だ。

 4月19日の四コマでも、チェシャイア・キャットの主題は続いている。赤い小屋の屋根にスヌーピーがうつ伏せている。そこへルーシーがとおりかかる。スヌーピーは歯を見せて笑っている。そのスヌーピーにルーシーが言う。

「この私にチェシャイア・キャットの真似をしたら、ぶっ叩くわよ」

 そう言ってルーシーはどこかへいってしまう。屋根の上には歯を出して笑っているスヌーピーが取り残される。最後のコマのスヌーピーはにやにや笑いの口だけになり、屋根のすぐ上に浮かんで Rats! と言っている。

『現代ビジネス』講談社 2017年4月23日


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2020年2月21日 11:40
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