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片岡義男.com 全著作電子化計画

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評論・エッセイ

喫茶店を体が覚える

 LPが二十枚、ヴィニールの袋に入っている。かかえて持つとかなり重い。僕は中古レコード店を出て来たところだ。何軒かを巡回する予定だったのだが、一軒の店で二十枚も見つかってしまった。だから今日はこの一軒でおしまいだ。ひと休みしなくてはいけない。店でLPを点検すると手が汚れる。店のカウンターにある濡れたティシューで拭っても、きれいになった感じがしない。喫茶店のトイレットで、石鹼を使って洗うにかぎる。さあ、喫茶店だ、今日はあの路地へ向かおう。
 脇道を入ってすぐに、路地へ入る。ごく短いその路地のなかほどに喫茶店がある。僕が見れ…

底本:『音楽を聴く2──映画。グレン・ミラー。そして神保町の頃』(第三部 この都電はジン・ボ・チョへ行きますか) 東京書籍 2001年

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