VOYAGER

片岡義男.com 全著作電子化計画

MENU

評論・エッセイ

ジャニス、たしかに人生はこんなものなんだ

 古風で頑丈なその玉突き台は、徹底的に使いこまれたものだった。横が四フィート、縦が八フィートの台をとりかこんでいる分厚い木枠には、長い年月にわたってたくわえてきた小さな傷やへこみが無数にあり、煙草の焼けこげの跡が、いくつも黒く焼きこまれていた。すっかりはげ落ちた塗料のかわりに、しみこんだ手あかやよごれが人の体や服でみがきあげられ、鈍く光沢を放っていた。
 緑色のフェルトにも、煙草でつくられた黒い小さなこげ跡がいくつかあった。なにか飲み物をこぼしたらしいしみが、フット・スポットを中心に広がっている。そのむこうの、ポケットの…

底本:片岡義男エッセイ・コレクション『「彼女」はグッド・デザイン』太田出版 1996年
『アップル・サイダーと彼女』角川文庫 1979年所収

このエントリーをはてなブックマークに追加