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ふたりで語り合う物語。記憶のなかの、過ぎ去った夏。──(10)

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彼女「ちらっとだけではなく、思う存分、彼女の裸を見てみたい、などとも思うの」

彼「見せてもらえばいいじゃないか」

彼女「もう見ました」

彼「どうだった?」

彼女「夏の彼女は、ライディング・スーツの下は白いTシャツと、男物のボクサー・タイプのパンツだけだったわ」

彼「彼女は、ダンサーだって?」

彼女「そうよ。好奇心の強い人で、地方都市のストリップ劇場に、ストリップ・ショーの踊り子として出演していた頃に、私は彼女と知り合ったの。ストリップ劇場のステージで身につけるための衣装を、私がオートバイで届けたことがあったわ」

彼「ストリップ・ショーに衣装が必要なのかい」

彼女「裸をきわだたせるための、さまざまな衣装があるのよ。何年かまえの、夏のはじめのある日、彼女から私のところに電話があったの。知り合って、まだ間もない頃よ。彼女は関西の地方都市に滞在していて、ストリップ劇場に出演していると言うの。注文した衣装が出来ているはずだから、受け取りにいって、それをここまで持って来てくれないかと、私に頼むの。好きな人に頼みごとをされるのが、私は大好きなの。だから私は、引き受けたわ。千住のほうにある古い民家を、私は訪ねたわ。そこに住んでいる、妙な雰囲気のおじいさんが、ストリップ・ショーの踊り子さんたちの、ステージ衣装を、注文で作っているの。出来ていた衣装を、おじいさんは、私に丁寧に見せてくれたわ。おじいさんは、 明らかに、楽しんでいたわ。代金も立て替えて、明くる日、私はオートバイでその関西の地方都市へむかったの」

彼「届けたのかい」

彼女「届けました。ものすごく湿気の高い、暑い日に、私はその町に到着したの。彼女が宿泊している、木賃宿という呼びかたがまさにぴったりくるような旅館の一室で、私はその衣装を彼女に手渡しました。彼女は私の目のまえで裸になり、衣装をひとつひとつ身につけて、点検したの。私は感想を求められ、意見を述べたわ」

彼「彼女のステージは、見たのかい」

彼女「見たわ。昔は映画館だったその劇場の、かつては映写室でいまは照明を送る部屋の小さな窓から、私はステージを見物しました。ストリップ・ショーが、まだ文字どおりただのストリップ・ショーでしかなかった頃の話よ」

底本:片岡義男エッセイ・コレクション『彼の後輪が滑った』太田出版 1996年

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1996年 『永遠の緑色』 ふたりで語り合う物語。記憶のなかの、過ぎ去った夏。 エッセイ・コレクション オートバイ 会話 片岡義男エッセイ・コレクション『彼の後輪が滑った』 物語 男女
2017年4月16日 00:00
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