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片岡義男.com 全著作電子化計画

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評論・エッセイ

陽が射してきた|アビーロードのB面

 彼女がいま自分のものとして乗っている自動車は、叔母から引き継いだものだ。叔母は昨年の春に自動車の運転をやめた。車体ぜんたいのかたちといい、色といい、すべて叔母とよく似た車だ。運転する彼女に対する、反応のしかた、そして走りかたなども、叔母にそっくりだ。叔母の生きうつしのような車だ。だから、この自動車に乗って走っていると、彼女はいつも叔母といっしょにいるような気がしてならない。
 雨は上がっていた。さきほどまであれほど激しく降っていたのに、いまはもうきれいさっぱりと、雨はどこにもなかった。雨が上がると同時に、彼女は窓のガラ…

底本:『アール・グレイから始まる日』角川文庫 1991年

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