僕の肩書は(お利口)としたい
僕が13歳の頃、小田急線の車両はまだあずき色だった。少なくとも各駅停車の電車は、そうだった。13歳のある日、夕方近く、各駅停車の上りにひとりで乗って、僕は座席にすわっていた。経堂の友だちの家へいった帰りだった。
電車が豪徳寺を出てすぐに、僕はふと気づいた。僕のすぐ斜め前に、ひとりの若い女性が立ち、片手で吊り革につかまり、もういっぽうの手には文庫本を開いて持ち、気持ちを集中させたような表情で、読んでいた。
20代のなかば、あるいはなかばを過ぎたばかり、という年齢だった。いまと違って当時では、そのくらいの…
底本:『坊やはこうして作家になる』水魚書房 2000年
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