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評論・エッセイ

紀子が住んでいた家

 映画と家あるいは間取り、という主題がまっすぐに結びつくいまの僕の興味は、紀子が住んでいた家だ。紀子とは、小津安二郎という映画監督がかつて作った、『晩春』『麦秋』そして『東京物語』という三本の映画のなかで、主演の原節子が演じた女性の役名だ。紀子三部作とも言うべきこの三本の映画のなかで、原節子は紀子というおなじ名で登場する。
『東京物語』では、紀子さんは鉄筋コンクリート造りのアパートの、文字どおりの一室にひとりで住んでいる。しかし『晩春』と『麦秋』の二本では、北鎌倉にある一軒の木造二階建ての、ごく普通の民家に、その家の未婚…

底本:片岡義男エッセイ・コレクション『「彼女」はグッド・デザイン』太田出版 1996年

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