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評論・エッセイ

8月25日 噴水

 真夏の、美しい快晴の日だった。まっ青な空から、午後の強い陽ざしが、広場に降り注いでいた。ぼくは、広場の中央にある大きな噴水にむかって、歩いていた。噴水は青い空にむけて複雑なかたちに、そして盛大に、水を噴きあげていた。水は空中で陽ざしに鋭くきらめき、噴水のなかで水遊びをしている子供たちのうえに、落下していた。
 噴水にむけて歩いていくぼくの数歩まえを、ひとりの若い女性が歩いていた。彼女も、噴水にむかって歩いていた。美しい体をした若い彼女は、スカート丈のみじかい、袖なしの夏のドレスを着ていた。ヒールの高いサンダルをはいた両…

底本:『すでに遥か彼方かなた』角川文庫 一九八五年

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