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アメリカの革命|エルヴィスから始まった

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5 ブルース

〈4〉 アメリカの革命

「カナダからメキシコまで、アメリカのすべてが南部だ」
 と、マルカムが、言った。

 アメリカ全土に、ブラック・アメリカンによる革命が広がっている事実をこの言葉は示しているし、それと同時に、ブラックの問題が、単独にはとうてい解決できないことをも、示している。

 一九六三年八月二八日、二〇万人の人たちが、首都ワシントンで、黒人問題解決のために、大行進をおこなった。

「黒人のプロテストの終焉を告げ、新たにアメリカ人のプロテストを示す」行進である、とフロイド・マッキシクが言い、全米の白いアメリカ人たちは、自分たちよりは一段下であるはずの人間、黒人が、立派に行進しプロテストするのをはじめてテレビでながめ、ショックを受けた。

 このワシントン大行進のひと月あとには、バーミングハムの教会で、白人によってしかけられた爆弾で四人の黒人の子供が殺された。殺されて当然なのだ。ワシントン大行進の日、ワシントンの酒場や酒類販売店は、一日、休業するよう、アメリカ政府から命令され、忠実にそれにしたがった。黒人たちが酒を飲んであばれるといけないので、行進の日には酒は売らないことに決定されたからだ。

 あくる年の七月二日、ジョンソン大統領が、公民権法にサインした。

 そして、次の年、一九六五年八月一一日から一七日まで、ロサンゼルスで、ブラック・アメリカンの暴動がおこった。

「我々の主張に人々の耳をかたむけさせることのできる唯一の方法は、暴動をはじめることだ」というブラック・アメリカンの言葉はなにを意味しているか。

 一九六六年も六七年も、夏になるとゲットーで暴動がおこった。六六年には、ブラック・アメリカンはゲットー以外のところでも白人と闘い、六七年には、敵である白人のなかに、黒人中産階級までが含められるようになった。一九六七年一月一〇日の、ジョンソン大統領の年頭教書は、公民権について触れた部分は、わずかに数語しか持っていなかった。夏の黒人暴動は、長くて暑い夏の季語になり、そうなればなるほど、白人による反黒人感情はたかまり、法と秩序が要求されるようになり、ロナルド・レーガンのような超反動分子がカリフォルニア州知事になれてしまう。

 白いアメリカ人たちは、結局のところ、自分自身について問いただされると、やはり「すべての黒人がラルフ・バンチのような人間なら、ランチ・カウンターでともにハンバーガーを食べよう」という態度のなかにひきこもるのだ。ハンバーガーを買うためのカネもないのに、白人といっしょにランチ・カウンターにすわって、いったい腹はふくれるのか。「もしわれわれが魂を救済するとともにカネをためることができるならば、われわれの問題の多くは解決するだろう」と、ミリタントな運動に反対しているS・B・フラーは、言うのだ。しかし、なぜいつまでたっても、ブラック・アメリカンは、カネをためることができないのか。

 黒人の教育が低くていい職につけないからでもなく、白人が職をあたえてくれないからでもない。黒人はただ単純に失業しているからカネがたまらないのであり、なぜいつまでも失業しているかというと、かつては安い労働力として彼らを土台にしたアメリカの資本主義が、労働力をそれほど必要としなくなっているからだ。黒人は安い労働者群として、白人労働者をおびやかす存在ですら、なくなっている。

 黒人問題が、肌色のちがいに根ざす簡単な差別や偏見であるならば、そんなものはとっくに解決しているか、あるいは解決していなくても、ワッツの暴動のようなことにはならないのだ。

 ロサンゼルスは、白人と黒人とが平和を保っている、アメリカでもまれにみる大都会だと一般には思われていた。実際はしかしそうではなく、ロサンゼルスの黒人たちの失業率は三〇パーセント以上、生活保護をうけている家庭は六〇パーセント、そして、一六歳から二四歳までの男性の失業率は二人にひとりで、これは白人のそれに比較すると、三倍ちかい数字だった。

 だからブラック・アメリカンの暴動は、肌の黒い人たちの暴動ではなく、資本主義社会のなかのアウトサイダーである失業者の暴動としてとらえなければいけない。黒人問題はアメリカ資本主義の最重要問題と緊密にかみあっている。

 いまのアメリカのなかの労働者は、一八世紀的な労働者ではない。オートメーション参加者とでも言いなおすべきで、このオートメーションがじつは、アメリカ資本主義社会のなかで、皮肉な結果を生みつつある。

 オートメーションは、労働者をかたっぱしから整理していく。いらなくなった労働者は失業者となる。失業者は、労働者の税金によって、社会保障をとおして、かろうじて支えられる。失業者をなんとかまた職につけようとして、いろんな工夫がなされる。失業者個人も、人は働かなければならない、という考え方に支配されているから、職をさがそうと努力する。このへんに、重大なまちがいがあるのだ。

 資本主義があげる利益は、さらに真剣なオートメーションに投資される。民間の資本も政府も、ともにこれをおこなう。オートメーションがすいあげる利益は、どれだけ生産をあげたか、という開拓の結果ではなく、つくり出されたマーケットが持っている一定の購買力が生む一定の利益の、自由競争による分配の結果でしかない。

 これまで、資本主義は、人間がつくり出した最善の生存形態だと考えられていた。そうではない事実を、ほかでもないオートメーションが、現実に見せてくれている。

 オートメーションは、人間の生命を、労働から切りはなしてくれつつある、と考えなくてはいけない。これまでとまったくことなった新しい考え方ができるかできないかで、歴史はちがってくる。いまは、その新しい考え方が必要とされているときなのだ。

 ほんのすこしの人間がオートメーションを操ることにより、すべての人の消費をみたすことが、すでにできる。生産のための労働から解かれた人は、失業者となって暴動をおこさなければならないのか、それとも、一八世紀的な労働者世界から解放された、新しい人種になるのか。

 言葉にしてしまうと、あっけないほどに簡単だ。

「人間には、労働するしないにかかわらず、すべて完全な生命、自由および幸福の追求の権利がある。完全な生命の権利の問題と労働の問題とは、ここではっきり切り離して考えなければならない」

 ジェームズ・ボッグズのこの天啓のような言葉にスリルをおぼえることのできない人は、もうだめなのではないだろうか。人間が生命の権利のために労働を強制されるのは、明らかにまちがっている。人間は、労働よりも貴重だ。資本主義の次にくる社会は、働かなくていい人たちが大部分を占め、失業者というアウトサイダーのいない社会だ。

「コンピュータが、そんなにこわいか」
 と、アビー・ホフマンが、言った。

「電源を切れば、コンピュータにはなにもできないではないか」

 オートメーションとの対抗、そしてそれの征服が人間の仕事では”ない”〔原文は傍点〕ことを、アビー・ホフマンは語ってくれている。仕事はオートメーションにやらせておけばいい。人間には、もっとほかにすることがあるのだ。

 オートメーションによる失業者を、ばらばらなアウトサイダーの群れではなく、働かなくてもいい人たちとして、新しいパワーを持った世界にするためには、そのアウトサイダーは、ばらばらではだめで、やはり組織化しなければならない。黒人にいま最も必要とされているのは、組織化のための現実的な第一歩である政治的な力だ。同時に、ウッドストックの三日間に集った四〇万人のアウトサイダーにも、組織が必要だ。

 古い価値がまだ絶対的な支配力を持っている世界で、これまで誰も考えおよばなかった新しい価値を樹立するには、やはり古いものにたてついていかなければいけない。ブラック・パンサーの銃が持つ攻撃的な性格は、この意味でとらえるべきだ。現実にはそうではなくても。

[この項、了]

(『エルヴィスから始まった』1994年/『ぼくはプレスリーが大好き』(1971年)改題 *青空文庫のテキストを用いて作成しました)

今日の一冊|romancer-books04|『エルヴィスから始まった』

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blog170102|エルヴィスから始まった|ロマンサー文庫04|公開]2016年4月より木曜に掲載してきた『エルヴィスから始まった』(『ぼくはプレスリーが大好き』改題)を電子書籍として無償公開しました。

エルヴィスから始まった|気になるタイトルを選んでみてください。

第1章|ミシシッピー州東テュペロ


第2章|心が爆発する


第2章|トータルな体験と目覚め|
   1|ロックンロールは「生き方」だ
   2|ティーンエイジ・アメリカ
   3|いつラジオの音量をあげたか?


第4章|カントリー・ミュージック|
   1|アパラチアのストラデヴァリアス
   2|エレクトリック・ギター
   3|真実としての日常生活
   4|バーミンガムに歩いて帰る
   5|ヒット
   6|マーティン・フラットトップ・テイクオフ


第5章|ブルース|
   1|ブラック・アメリカン
   2|ミスター・ブルース
   3|ブルースマン
   4|アメリカの革命
   5|白人にブルースがうたえるか?


第6章|ロックン・ロールとカウボーイ・ブーツ


第7章|なぜアメリカに「NO!」というのか?


第8章|1960-1970 アメリカ
   1|「いろんなことが同時におこる」ボブ・ディラン
   2|歌になにができたか?
   3|ビートルズはつまらない
   4|単純なものと複雑なもの
   5|ロバート・ジンママン
   6|ヒッピー・ムーヴメント
   7|LSDとマリワナの迷信
   8|FUCK NOW!
   9|フィルモア
  10|ウッドストック
  11|「頭にエサをやれ」(ジェファスン・エアプレーン『ホワイト・ラビット』)
  12|LOVE


第9章|ミシシッピー河により近く


第10章|ELVIS IS BACK


エルヴィス・プレスリーの物語


角川文庫版・あとがき


1971年 1994年 「第5章 ブルース」 『ぼくはプレスリーが大好き』 『エルヴィスから始まった』 アメリカ ブラック・アメリカン ブルース 音楽
2016年8月11日 05:30
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