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マーティン・フラットトップ・テイクオフ|エルヴィスから始まった

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4 カントリー・ミュージック

〈6〉 マーティン・フラットトップ・テイクオフ

 カントリー・ソングがひとつのサウンドとして持っている影響力は、「田園の素朴な真実」ではなかった。農業するよろこびをうたったカントリー・ソングがあるだろうか。農業につながった歌は、ハード・タイムズ(つらかった日々)の歌であり、カントリー・ソングは田園をはなれたところで成立している。

 アパラチアの山中でストラデヴァリアスのフィドルを弾きながらうたっていた人たちにとって、自分たちの音楽は、音楽のよろこびにひたることによってしばし現実を忘れるというような効果を持った。大泣きしたあとに気分が晴れるあの心理上の効果があり、音楽のよろこびは別世界へいく楽しさであった。来世を唯一の目標とする激烈な宗教感情と似ていて、来世へのつたない希望をすてるまでの黒人ゴスペルと共通したものを持っていた。ブルーグラスが、袋小路のなかの音楽のように聞こえるのは、おそらくこのへんに理由がある。

 カントリー・ソング、特にジミー・ロジャーズ以後の都会派のそれは、人間関係の歌となると同時に、サウンドは人をしてどこか外へむかわしめる力を持ちはじめた。純粋に音だけを考えても、黒人ブルースからの影響が大きく、この点でもカントリー・ソングのサウンドは、自分の外にむかってなにかを表現する力を持った音でありうるのだが、白人は白人で、黒人のブルース・マンとはちがった事情により、外へ出ていかなければならなかった。

 アメリカの、カントリー・ソング地帯と呼ばれている現場へいってみなければ絶対に理解できないことだ。テキサスやニューメキシコあたりの田舎で生まれてそこに育ち、貧乏な生活のなかでラジオ、特にトラックのカー・ラジオでカントリー・サウンドを毎日くりかえし聞いていると、どこかへ出ていきたくなるし、出ていくことはむしろ救いでもあるのだ。はじめから貧しい生活なので、どこへいってもいま以上にひどくなることは考えられず、自動車とハイウェイ、鉄道と汽車は、カントリー・サウンドが持つ奇妙な楽天主義の裏打ちとなっている。ハイウェイや鉄道のはてにあるものは都会であり、この都会で成功をつかむ歌はカントリー・ソングにはすくなく、都会ではむしろ三悪や失恋が主要なテーマになっている。農業が次第に労働人口を都会へ解放していった時代の流れにカントリー・ソングは、やはりのっているのだ。

 カントリー・サウンドを支える楽器は、ギター、ベース、ドラムスであり、ロックンロールとおなじだ。これらの楽器が、音として人間の体や心にどう作用するかは、あとで書くことにしよう。

 カントリー・ソングの音は、人を外に出ていかせる音、外へまねき出す音だった。くりかえすけれども決して「田園」の音ではない。そして、楽しい音でもない。むしろペシミスティックであり、ペシミスティックでありながら、体に作用してくる不思議な音だった。体は、動きたくなってくるのだ。

 外に出ていくことは、他者との激烈な対立を意味した。解きはなされた自分が他者と対立したとき、精神は内向し、自分をみつめた。他者との対立は、したがって、自分の発見にほかならなかった。そして、自分の発見のための最大のきっかけは、リズム・アンド・ブルースとの溶合によってロックンロールとなったときだった。

(注・カントリー・アンド・ウエスタンの歴史上のデータは、すべてロバート・シェルトンの『カントリー・アンド・ウエスタン音楽の歴史』によっている。)

[この項、了]

→5 ブルース(木曜連載)につづく

(第4章 カントリー・ミュージック|5 ヒット|『エルヴィスから始まった』1994年/『ぼくはプレスリーが大好き』1971年改題 *青空文庫のテキストを用いて作成しました)

今日のリンク:

1) ジミー・ロジャーズ公式サイト|ボブ・ディランの編によるジミー・ロジャーズ・トリビュート・アルバムライナー・ノーツ

2)

ジミー・ロジャーズ「眼に涙のある夢」(Jimmie Rodgers, Dreaming With Tears In My Eyes, 1933)

ボノ「眼に涙のある夢」(Bono, Dreaming With Tears In My Eyes, 1997)

(『エルヴィスから始まった』1994年/『ぼくはプレスリーが大好き』(1971年)改題 *青空文庫のテキストを用いて作成しました)

今日の一冊|romancer-books04|『エルヴィスから始まった』

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blog170102|エルヴィスから始まった|ロマンサー文庫04|公開]2016年4月より木曜に掲載してきた『エルヴィスから始まった』(『ぼくはプレスリーが大好き』改題)を電子書籍として無償公開しました。

エルヴィスから始まった|気になるタイトルを選んでみてください。

第1章|ミシシッピー州東テュペロ


第2章|心が爆発する


第2章|トータルな体験と目覚め|
   1|ロックンロールは「生き方」だ
   2|ティーンエイジ・アメリカ
   3|いつラジオの音量をあげたか?


第4章|カントリー・ミュージック|
   1|アパラチアのストラデヴァリアス
   2|エレクトリック・ギター
   3|真実としての日常生活
   4|バーミンガムに歩いて帰る
   5|ヒット
   6|マーティン・フラットトップ・テイクオフ


第5章|ブルース|
   1|ブラック・アメリカン
   2|ミスター・ブルース
   3|ブルースマン
   4|アメリカの革命
   5|白人にブルースがうたえるか?


第6章|ロックン・ロールとカウボーイ・ブーツ


第7章|なぜアメリカに「NO!」というのか?


第8章|1960-1970 アメリカ
   1|「いろんなことが同時におこる」ボブ・ディラン
   2|歌になにができたか?
   3|ビートルズはつまらない
   4|単純なものと複雑なもの
   5|ロバート・ジンママン
   6|ヒッピー・ムーヴメント
   7|LSDとマリワナの迷信
   8|FUCK NOW!
   9|フィルモア
  10|ウッドストック
  11|「頭にエサをやれ」(ジェファスン・エアプレーン『ホワイト・ラビット』)
  12|LOVE


第9章|ミシシッピー河により近く


第10章|ELVIS IS BACK


エルヴィス・プレスリーの物語


角川文庫版・あとがき


1960年代 1971年 1994年 「第4章 カントリー・ミユージック」 『ぼくはプレスリーが大好き』 『エルヴィスから始まった』 アメリカ カントリー・ミユージック ジミー・ロジャーズ ナッシュヴィル・サウンド 青空文庫 音楽
2016年7月21日 05:30
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