アイキャッチ画像

シャッター・ボタンの色が、なんとも言えず好ましい

LinkedIn にシェア
LINEで送る
Pocket

 グラス・ファイバーで補強したマクロロンという材料で作ったボディだそうだ。レンズは、2.8のF=35ミリだ。ボディの横幅は10センチ、高さが6センチ、そして厚みは3センチという、可愛らしいサイズだ。レンズは沈胴式だから、レンズを閉じて蓋をしてしまうと、ほんとに小さい。距離の決定は、目測だ。レンズのリングには、0.9メートルから無限遠までが表示してある。絞りをきめると、その絞りによる光量に対応したシャッター・スピードが、自動的に決定される。どのくらいのシャッター・スピードになるのかは、ファインダー内の簡単なスケールに指針で表示される。

 というふうに言葉で要点を書いていっても、このミノックス35GTというカメラが持つ独特の魅力は、伝わらないはずだ。写真を見ても、なんだ、カメラではないかと思うだけだろう。手にしてみるほかないようだ。そして実物を手にしても、これといって魅力を感じない人も、たくさんいるにちがいない。

 ぼくは、この小さなカメラが、たいへんに好きだ。サイズも手ざわりも、機構も、そしてレンズを開いたときのぜんたいの形も、気にいっている。ファインダーをとおして見るときの、光景の見えかたも好ましい。ボディの黒に対する、シャッター・ボタンの色がなんとも言えずいい。レンズを開くときの感触、つまり機構は、よく出来ている。さまざまなこまかい部分がひとつに集まって、ぜんたいとしてミノックス独特の魅力をつくり出している。その魅力が、ぼくは好きだ。形、感触、雰囲気、などがつくり出す、これならではの独特な魅力というものの、ひとつの好ましい見本が、このカメラには確実にある。

 レンズの描写能力には、きっと癖があるのだろう。その癖を肯定的に引き出して撮ることが出来るまでに、ぼく自身は至っていないけれど、印刷原稿用のカラー・ポジティヴを、ぼくはこのカメラでたくさん撮った。

 一眼レフは持ちたくないけれど、なにかカメラを持っていたい、というようなとき、このミノックスは、すくなくともぼくにとっては、ぴったりだ。見る人の視線を、あるひとつの特定のものに集めるような写真ではなく、画面のなかにあるぜんたいが微妙にまんべくなく重要である、といった写真を撮るのに最適であるようだ。

(2016年6月22日掲載 『彼らと愉快に過ごすー僕の好きな道具について』1987年所収)


今日のリンク:今日(6月22日)は、カラー写真の歴史を変えたといわれるコダックの”カラー・ポジティヴ”のフィルム「コダクローム」の製造中止が発表された日。2009年のことでした。一時期の『ナショナル・ジオグラフィック』の写真の多くが、このフィルムで撮られたそうです。「コダクロームの衝撃」(NG日本公式サイト「そうだったのか! ナショナル・ジオグラフィック」)。そして銀塩小型カメラ「ミノックス」の歴史はこちら「ミノックス秘話」


information:弊サイトのコンテンツに”写真“が加わりました。片岡義男の写真約5000点を収録予定の「kataokaフォト」。一部サンプルを一般公開しています。スクリーンショット 2016-06-13 9.10.33


1987年 『彼らと愉快に過ごすー僕の好きな道具について』 カメラ ミノックス 写真 道具
2016年6月22日 05:30
サポータ募集中