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片岡義男.com 全著作電子化計画

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評論・エッセイ

なぜなら|アビーロードのB面

 カフェの奥で、彼女は、丸い小さなテーブルとむき合っていた。カップのなかの熱く濃いコーヒーは、半分以上、飲んであった。テーブルの下で脚を組んでいる彼女は、ひとりで自分の手帳を見ていた。
 彼女の掌のなかにおさまる、ダーク・グリーンの皮表紙の手帳だった。一ページに二日のスペースが充ててあった。簡単な書きこみがしてある日々を、彼女は現在からごく近い過去にむけて、逆にたどりなおしていた。日ごとの書きこみを読んでは、かたちのいい指で手帳のページをめくっていた。何日か前に自分が書いたことを読みなおして、彼女はふと微笑した。

底本:『アール・グレイから始まる日』角川文庫 1991年

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