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片岡義男.com 全著作電子化計画

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評論・エッセイ

電車の中で食べました

 都内ターミナル駅の広くて複雑なコンコース。多数の人がいろんな方向へ常にいきかう平日の午後、人どおりがもっとも多い時間。二十代後半、会社勤めのスーツ姿の女性が足もとに鞄を置き四角い大きな柱にもたれてちくわを食べているのを見てから、十五年ほどになるだろうか。ちくわの一端を指先につまんで持ち、いきかう人々を睥睨しつつ、他端を口に突き入れては噛み切り、これで当然という顔で咀嚼していた。
 ほぼおなじ時期、東京駅中央線のホームが現在のように改築される前、そのホームの西の端にあった小さな建物の壁によりかかり、かたわらの塵箱に鉄火巻…

底本:『自分と自分以外──戦後60年と今』NHKブックス 2004年

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