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評論・エッセイ

第九条

 僕が小学校の一年生だったとき、「天皇は日本の国のシンボルです」と、先生が教えてくれた。シンボルという言葉を、片仮名で書いて日本語として使うことに、すでに人々のあいだに違和感はまったくなかったようだ。しかし当時の僕にとっては、シンボルという英語は記号という意味だった。地図のなかのお寺の記号、というような場合の、記号だ。象徴という意味があることは、もちろん知っていた。シンボルよりも象徴という日本語のほうがはるかにいい、と幼い僕は思った。少なくとも見た目にも心理的にも、象徴という漢字のほうが、すわりはずっといい。
 何年か前…

底本:『日本語の外へ』角川文庫 2003年
『日本語の外へ』筑摩書房 1997年

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