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片岡義男.com 全著作電子化計画

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評論・エッセイ

退社までの九十日間について

 大学を卒業すると同時に僕は就職した。西も東もわからない青年が、大学をただ出たからと言って、そのまま会社に入って給料取りになり、それがいつのまにか二十年、三十年と続いてその人の人生になってしまうことに、僕は反対だった。だから僕は就職をしないつもりでいた。四年の夏休みが終わっても内定をひとつも取りつけていない僕のことを心配した友人が、ある中堅の商事会社の入社試験を受ける手続きを、僕にかわっておこなってくれた。
 好奇心から、僕はその試験を受けた。たいへんに失敬な試験であるように僕には思えたから、そのとおりを手紙に書き、社長…

底本:『ノートブックに誘惑された』角川文庫 1992年

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