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評論・エッセイ

4サイクル・ツイン

 東北、常磐、奥羽、信越などの地方をひと夏かけて自動車で走りまわったのは素敵だった。なんの目的もない旅だった。大好きな夏のなかで、気ままに自動車で走り、ディスカバー・ジャパンではないけれど、田舎の景色や人情に触れては、単純に感激していた。空は青く、雲は白く、湖は美しく、山は緑、そして太陽は燃える黄金だった。もう何年も昔のことだが、あのときの空や風を、まだぼくの体は忘れてはいない。上越から長野までの国道18号線。長野から塩尻の19号線。そして塩尻から大月あたりまでの20号線。このラインから北を、あの夏、ぼくはまったく自由に、走ったのだ。…

底本:片岡義男エッセイ・コレクション『彼の後輪が滑った』太田出版 1996年
『アップル・サイダーと彼女』角川文庫 1979年所収

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