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古書の世界では東京と江戸、戦後と戦中がフラットにつながっている

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三千冊の古書の題名が並ぶ目録

 駿河台下の交差点の北東側、明大通りから入った道に小川町郵便局があり、確かその左隣に、東京古書会館という建物がある。ここでは古書の展示即売会がおそらく毎月、いくつもおこなわれている。

 そのうちのひとつが、古書市のたびに目録を発行していて、僕のところにも届く。表紙と裏表紙を別にすると六十二ページで、一ページには二段組の小さな活字で五十冊ほどの古書の題名がならんでいる。だから六十二ページだと三千冊を越える。三千冊の古書を一冊の軽い目録として手のなかに持てる。

 最新号を見ていたら、雑誌『ワンダーランド』の創刊号から第六号まで、つまりサイズが大きかった時期の六冊揃いが、一万六千円で出品されているのを見つけた。「本体経年ヤケ、4、5、6号少背ヤケ、6号表紙オレ、他経年並」という注釈がついていた。一冊ずつなら古書店の店頭でたまに見かける。透明なヴィニールの袋に入っている。二千円くらいか。出来るだけ程度のいいのを六冊揃える、という趣味の人がかつて何人もいた。

 Whole Earth Catalogの1980年版が9000円で出品されていた。「ヤケ・シミ・イタミ」があるという。おなじ古書店が『隅田川 江戸が愛した風景』という本を出品していた。江戸東京博物館で行われた展覧会の図録のようだ。これは購入しようかな、とふと思う。葉書で注文を出し、応募者多数の場合は抽選になるという。抽選に当たれば購入することが出来る。

Random House 1980年

 岩波少年文庫のドリトル先生のシリーズが四冊、出品されていた。昭和26年から28年にかけてのもので、翻訳者は井伏鱒二だ。「サーカス」「アフリカゆき」「郵便局」「キャラバン」の四冊だ。欲しいですか、と訊かれたなら、ぜひ欲しいです、と僕は答える。ドリトル先生のシリーズは全巻集めるといい。作中に登場する動物に、横から見るとまんなかに胴体があり、その左右におなじ首と頭のある双頭の動物がいて、これが日本語だと、オシツオサレツ、という名前になっていた。

 これは素晴らしい翻訳だと、いまでも僕は思っている。英語から日本語へと翻訳されたもののなかで、このオシツオサレツは最高のものだ、と僕は言う。オシツオサレツを原文の英語ではなんと言うのか、子供の頃から知りたいと願っている僕は、いまだに知らないでいる。調べればたちどころに判明するだろう。ドリトル先生のシリーズを岩波の少年文庫で全冊揃えたのち、そのなかの日本語の活字で、オシツオサレツのひと言をもう一度見たい。原文ではなんと言うのかを知るのは、そのあとでいい。物事には順番というものがある。

岩波書店 2000年

『原稿用紙の知識と使い方』という本を目録のなかに見つけた。松尾靖秋という人の著作で、1981年に南雲堂から出版された。初版カヴァーつきで千円だ。僕のためにあるような本ではないか。これはぜひ買うとしよう。

 そのすぐ左隣に、『女性編集者』という本があった。三枝佐枝子。筑摩書房、昭和42年、初版、カヴァーつきで千五百円だ。昭和42年は1967年だ。書籍や雑誌の編集にかかわる仕事が、女性にとって長く続ける仕事として、業界のなかで認知され始めた時代だ。これも購入しよう。そしてすぐに読むといいだろう。原稿用紙の使いかたの本とともに。

古書はタイムマシーン

 日本の書き手がパリあるいはフランスについて書いた本を、僕はかつて集めてみたことがある。かなりありそうだ、と僕は思った。目につくものをかたっぱしから買う、という買いかたを続けると楽しいのではないか、と思ったのだ。実際に買ってみると、かなりあるどころではなかった。際限なくある、という言いかたのほうが、ふさわしいのではないか。いまでも事情はまったくおなじだろう。

『パリの昼と夜』『巴里のシャンソン』『パリ・コンミューンの風刺画』といった本が出品されているのを見て、かつて実行した「パリもの・フランスもの」買いのことを思い出した。半年もたたないうちにスティールの本棚がひとつ、いっぱいになった。『ふらんす語季節の動詞』という本には強く惹かれるものがある。平仮名で書いた、ふらんす、というものが、かつて日本にあった。いまでもあるだろうか。

『映画で見る日本文学史』は岩波ホールの編纂だ。『一年三百六十五日分の献立と調理 毎日のお惣菜』は、昭和7年の『主婦之友』という雑誌の付録だ。これは手に入れたい。

『平戸オランダ商館の日記』という本を目録のなかに見つけた。オランダ商館とは、江戸時代の日本と貿易をするために、日本に滞在していたオランダの人たちが建てた事務所のようなものだ。初めは平戸にあったのだが、いまから三百七十六年前、寛永十八年という時代に、平戸から長崎の出島に移った。

 当時の日本で、はるか遠くのオランダから来た人たちが、どのような貿易を画策していたのか、この日記を読むとわかるのではないか。古書はタイムマシーンだ。手にした瞬間、その時代に戻ることが出来る。三百七十六年は、戻る時間としては、僕にとっては限界だ。

 東京に関する本はじつにたくさんある。しかも東京は、戦争、大正、明治を経由して、江戸につながっている。東京についての本を買っていると、いつのまにか江戸までさかのぼっていることに気づく。その頃には本棚のひとつやふたつは、東京本で埋まっている。目録にも東京は江戸とともにたくさんある。『銀座細見』『東京案内』『縦横から見た東京』『明治東京区分地図』など、基本だろう。

『灯火管制の要領』には戦争中の東京がある。戦前のダンスホールのマッチラベル22枚、三千円で出品されている。東京に関する本や資料を多少とも集めたければ、このようなものも欠かせない。

 雑誌も尽きない。雑誌の創刊号を集める趣味の人はいまでもいるだろう。『VAN』『奇』『土曜漫画』『漫画クラブ』『ラッキー』などがある。創刊号はないけれど、『子供の科学』が何冊も目録にある。戦中の『少女倶楽部』は貴重なのではないか。

 おなじく戦中には『イタリア』という雑誌もあった。『陸軍』という雑誌の創刊号はどうか。昭和8年の4月号だ。『平凡』の昭和33年9月の臨時増刊は『あなたの美空ひばり』と題した、芸能生活10周年記念号だ。『別冊近代映画』の美空ひばり特集も何冊かあり、分売可能で一冊がどれも二千円だという。

 僕が見た今回の目録の三千冊を越える古書のなかで、題名だけが記載してある本で僕がもっとも惹かれたのは、昭和18年、3240円の、『カハイイドウブツ』という本と、明治41年、五千円の、『心の研究』の二冊だ。

出典:『現代ビジネス』講談社 2017年8月20日
表紙:Photo by iStock


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2018年11月14日 00:00
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