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美女を三つ折りたたむ

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 一九五十年代前半の、ごくみじかい期間、アメリカの『エスクワイア』という雑誌には、三つ折りの引き出しページがあった。横長のページの一端はほかのページとおなじく綴じてあり、その横長のスペースは、山折りと谷折りひとつずつで、三つの平面に折りたたんであった。

 そのトライ・フォールドのひとつが、ここにあるアニタ・エクバーグの、半裸体の肖像画だ。五十年代前半のアメリカで注目を集めていた女優だ。なぜ人気があったか、その理由はこの絵のとおりだ。体の存分に大きい、奔放な印象のある肉感的な美人が、この時期のアメリカでは人気があった。アニタ・エクバーグは確かスエーデン人だったと思う。ヨーロッパ風味の肉感美人という、明らかに珍種に属する人だった。

 アメリカでは男女の性差がすさまじく巨大だ。男は常に女性を意識し、女性は男性に対する意識が、かたときも頭を離れない。ある程度以上の美人が、女らしさをきわめたような髪や化粧、服、身のこなしなどでかためると、彼女はたいへんにセクシーな人になってしまう。だからセクシーな美人は、アメリカには日常的にいくらでもいる。

 肉感的なセクシーさを自分の魅力の前面に押し立てることになったアニタ・エクバーグのような人は、いっときの人気は獲得しても、それはきわめて特殊な人気でしかないから、そのあとがつらかったのではなかったか。こんなふうに描かれて雑誌に綴じ込まれ、ピンナップとなるほかに、居場所はなかったはずだ。

 このようなピンナップを、アメリカの男性がひとりでつくづくと観察する。女性とはこういう存在でもあるのだということを、彼は否応なしに受け止める。そして意識のすぐ下に、巨大な性差の壁を築く。その壁ゆえに、彼という男性は、男は可能なかぎり強くなければならない、といった強迫観念のとりこともなる。

 無理の上に無理を必死に重ね、じつは男が、肉感的な美女という外面を獲得している様子、という雰囲気もこの絵のどこかにある。女性らしさという性差を極点まできわめると、それは男性のすぐ背後にまで迫って、軽く接触をする。自分もこうなりたいという願望を胸の底にたたんで、雑誌から引き出しては、こうしたピンナップを凝視したアメリカの男は、無数にいるはずだ。

出典:『Free&Easy』1999年9月


2017年10月26日 00:00