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片岡義男.com 全著作電子化計画

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評論・エッセイ

部屋を楽しんでいる人

 いま彼女がひとりで住んでいる部屋の設計に関して、彼女はいっさい関係していない。父親とその弟が共同しておこなっている仕事をとおして、彼女が使えることになった部屋だ。住みはじめて三年になる。破格の条件で使わせてもらっている、と彼女は思っているけれど、実際には彼女にあたえられたに等しい。いつまでも自分の好きなように、彼女はその部屋に住むことが出来る。
 設計者が考え抜いたさまざまな工夫の大部分を知るまでに、彼女は二年かかった。たとえば一階と二階の照明をすべて消した夜、間取りのなかに外からの明かりがどのように魅力的に入りこんで…

底本:片岡義男エッセイ・コレクション『「彼女」はグッド・デザイン』太田出版 1996年

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