
スミス・コロナとクールにさしむかい
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ぼくの、現在のタイプライターが、これだ。スミス・コロナのXE6000。これがないと、ぼくの日常のなかのかなりの部分が、にっちもさっちもいかなくなる。
ぜんたいのデザイン、反応の速度、操作音、キーのタッチ、印字の美しさなど、すべての点でこれは合格だ。このタイプライターとむきあうと、自分自身の遠近法のなかで、きわめてクールに、思考を集中させることが出来るように思う。タイプライターが思考にあたえる影響について、誰か研究しているだろうか。子供の頃からはじまって、ぼくはすでに何台ものタイプライターを使いつぶしてきた。これで二十台めくらいではないだろうか。
びっくりするような機能のつまった、優秀なタイプライターだ。ひとつの単語をそっくりそのまま取り除くことが出来るし、複数の単語を消すことも可能だ。スペリングをまちがえると、信号を発して指摘してくれる。パーソナル・コンピューターのプリンターとしても、使える。たとえばぼくの恋人がニューヨークにいると仮定して、彼女がタイプライターに打つ親密な手紙をコンピューターのネットワークでぼくのところへ送ってくると、ぼくのデスクの上のこのタイプライターは、あるとき突然、その親密な手紙をひとりでタイプしはじめる。
(底本:『彼らと愉快に過ごす──僕の好きな道具について』小学館 一九八七年)
今日のリンク|今日は杉本京太が日本語タイプライターの特許を獲得した日(1915年)
*サイト「これなあに」より|画像クリックでサイトの解説ページに飛びます。
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2017年6月12日 00:00
