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評論・エッセイ

一九五七年の春をさまよう

 知らない町を歩いていたら古書店があった。入ってみた。古書と呼び得る本と最近の本とが、半半にある店だった。よく探せば買いたい本は何冊かあるだろう。壁に沿った棚の前には平台があり、雑誌が積み上げられてならんでいた。そのいちばん奥は写真雑誌で、そのなかに一九五一年から五八年までのものが数冊あった。一冊が二百円。あるだけすべてを僕は買った。自宅の資料室の棚に押し込み、やがて忘れて三年ほどが経過した。ついさきほど、一冊を抜き出して窓辺のテーブルでページを繰りながら、午後のコーヒーをひとりで飲んだ。一九五七年の四月号だった。
 雑…

底本:『自分と自分以外──戦後60年と今』NHKブックス 2004年

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