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25セントの切手から学ぶ、アメリカの歴史と現在

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 ブラック・ヘリテージUSAの記念切手に関する、USポウスタル・サーヴィスからのパブリック・メッセージだ。ごく日常的に広く読まれている週刊誌に掲載されていた。

 切手のなかに記念されているのは、エイサ・フィリップ・ランドルフという人物だ。彼は、アメリカにおける黒人の人権の拡大に関して大きな努力をした人として知られている。その努力のうち、もっとも有名なのは一九二五年に、寝台車ポーターのブラザフッド、という団体を組織し、鉄道で働く下積みの黒人たちに、その労働に対して正当な報酬が支払われるシステムを作ったことだ。当時のアメリカはまだ鉄道の国であり、数多くの黒人その他のマイノリティが、低い報酬で鉄道の労働に従事していた。

 このパブリック・メッセージのヘッド・コピーもそしてボディ・コピーも、ほんとにアメリカらしい名文だ。凝ったところ、奇をてらった部分、あるいは妙にひねくりまわして工夫したようなところがいっさいない。これが、じつに気持ち良い。必要なことだけを適正なエモーションに乗せた速球を、まっすぐきれいに、まん真ん中へ投げこんだという印象が、最後まで端整にぜんたいを支配している。こういうときのアメリカ語の気持ち良さを、人は知るべきだろう。

 ランドルフの活躍に関して、一九二五年と一九六三年という数字があげてある。そしてそのふたつの数字を受けて、一九八九年の二月に彼の記念切手が発行される、とたたみこんでいる。過去を現在に生かす歴史の感覚が、完全に身についている事実を、こんなところにも見ることが出来る。

 ブラック・ヘリテージUSAの記念切手シリーズは、これ一種類だけではない。ほかにもたくさんある。人種問題がアメリカからなくなることはまずあり得ない。大問題としてかかえこんだまま、可能なかぎり理性的に、肯定的に、そして現実的に、その問題にアメリカは対応しようとしている。そしてこの努力もまた、いつまでも続かなくてはいけないものだ。

 そのような努力を維持していく緊張感をすこしでもゆるめるなら、それはアメリカが掲げている国家としての理想の重要な一部を、自ら削り取って捨てることにつながる。アメリカは、自分がかつて掲げた理想を、まだ降ろしていない。そしてその事実をことあるごとに、自らに対して、アメリカは確認している。このような記念切手も、その作業のうちのひとつだ。

(『シヴォレーで新聞配達−雑誌広告で読むアメリカ』1991年所収)

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1991年 『シヴォレーで新聞配達−雑誌広告で読むアメリカ』 アメリカ エイサ・フィリップ・ランドルフ ワシントン大行進 公民権運動 切手
2017年2月28日 05:30
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