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フリーダムを守ることが3Kになったら、その国はもはや国ではない

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 湾岸戦争で連合軍が地上戦に入る期限が目前にせまった頃、アメリカのごく一般的な週刊誌に掲載された広告を、いま僕は見ている。軍隊に入隊することを勧めるための広告だ。

 部分的に見えているアメリカ国旗を背景にして、アメリカン・イーグルがヘッド・コピーそのままに、スタンド・アップし、スタンド・アウトしている。あまりうまい絵だとは思えないけれど、こういう場合はうますぎない絵のほうが、見る人の心にせまる力をより強く発揮するのだろう。

 ヘッド・コピーに続く小さな文字による十センテンス七行のボディ・コピーは、アメリカという国が死守せずにはおかない原理・原則を、もっともわかりやすい言葉で表現したものの、ひとつの見本だ。見本と言うよりも、典型と言ったほうがいいかもしれない。アメリカはどこまでもこのような原理で動く国だ。日本の現行憲法の、たとえば前文とくらべてみると、興味深いにちがいない。

 軍隊への入隊を勧める広告は、この本の一三四ぺージ〔トップ画像〕にも取り上げてある。その広告では、軍隊で過ごすことによって得られる体験や身につく技術、あるいは習得出来る資格などを魅力的な材料として、入隊が勧められていた。それに対してこの広告では、原理と原則だけが、きわめてアメリカ的な調子で提示してある。湾岸戦争を強く意識した結果であることは明らかだ。

 ボディ·コピーの第一行Protecting freedom takes hard work. は、日本のごく普通の中学生なら「自由を守るにはたいへんな仕事が必要です」と、直訳することくらいは出来るだろう。

しかしその日本人中学生には、自由とは何なのかまるでわからないのではないだろうか。自由を守るために自分はどのようなことをすべきかとなると、もっとわからないはずだ。たいへんな仕事、つまりハード・ワークは、「きつい」「きたない」「危険」の3Kとして、あっさりしりぞけられてそれっきりだろう。

 アメリカにとってもっとも大事なものは自由だ。その自由に制限を加えようとはかるものに対して、アメリカは立ち上がる。その結果がどのような戦争になっても、その戦争は正義の戦争だ。

 自分の自由を確保していくプロセスのなかで、他者がどのような状態に置かれるかということについての配慮が完全に欠落しかねない事実、そしてその事実が正当化される事実を、この広告のボディ・コピーのなかに見ておかなくてはいけない。

(『シヴォレーで新聞配達−雑誌広告で読むアメリカ』1991年所収)

今日のリンク|米軍ホームページ|2月の特集はアフリカン・アメリカンの歴史

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1991年 『シヴォレーで新聞配達−雑誌広告で読むアメリカ』 アメリカ 広告 戦争 軍隊 雑誌
2017年2月27日 05:30
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