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黄色い鉛筆を手に冴える頭

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 アン・モロー・リンドバーグの『海からの贈り物』という本は、ぼくの大好きな本のひとつだ。この本の、いちばんはじめにある短いまえ書きのような文章のなかに、I think best with a pencil in my hand.というセンテンスがある。「鉛筆を手に持っているとき、私はもっともよく頭が働く」とリンドバーク夫人が書くとき、その彼女の手にある鉛筆は、黄色い軸の鉛筆だ。絶対にそうだ。黄色以外の色ではあり得ない。

 アメリカでは、鉛筆といえば黄色い軸だ。特殊な場合を別にすると、鉛筆の軸の色は、圧倒的に黄色だ。1900年にエバハード・フェイバーがモンゴルという名の黄色い鉛筆を売り出して以来、この伝統はつづいている。ぼくにとっても、鉛筆はまず黄色でなくてはならない。

 黄色い軸の鉛筆が、何本もたまってしまった。きれいなパッケージに入ったのを見かけると、つい買ってしまう。使ってはいるけれど、一本の鉛筆を使いきるのはたいへんだ。なかなかなくならないから、増えるいっぽうだ。

 ノートを開き、黄色い軸の鉛筆で、ああでもない、こうでもないと、落書きのようなメモをとりつつ考えをめぐらせていくと、確かに、鉛筆を持っていないときよりもはるかに、頭は冴えるようだ。人間の知的行為の象徴である、字を書く、ということから発生する無限の可能性が、一本の鉛筆のなかに息づいている。世界を変えてしまうような発明が、一本の鉛筆から生まれてくる。

(2017年2月21日掲載、『彼らと愉快に過ごすー僕の好きな道具について』1987年所収))

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1987年 『彼らと愉快に過ごす──僕の好きな道具について』 『海からの贈り物』 アメリカ アン・モロー・リンドバーグ 文房具 鉛筆
2017年2月21日 05:30
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