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完璧にちかい正三角形がひとつ|彼らはなぜ海へ来るのか|5 

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 サンタ・クルーズという地名を見たり聞いたりするたびに、海の水の冷たさを思い出す。秋から冬にかけて、そして冬のあいだずっと、波に乗るために沖に出ているとき、オニールのウエット・スーツをとおして全身に感じる海の冷たさを、思い出す。ブーツをはいている両足の冷たさが、サーフボードの感触とともに、よみがえってくる。

おおらかな半円に大きくえぐれたモンタレー湾の北の端、湾のすぐ内側に、サンタ・クルーズはある。ハワイのノース・ショアにいる友人から、このサンタ・クルーズにわざわざ長距離電話がかかったときのことを、ふと思い出す。雹まじりの雨が激しく降っている、秋深い季節の早朝だった。

 ノース・ショアの友人がハワイなまりの英語で言うには、ハワイのノース・ショアに入ってくるのとおなじうねりが、このサンタ・クルーズにも入ってきているはずだ、というのだ。おなじうねり、つまり、発生地点をおなじくするうねりが、ハワイのノース・ショアに、そしてカリフォルニアのノースランドであるサンタ・クルーズに、入っているはずだ、とその友人は力説していた。

 ハワイのノース・ショアに入ってきて波乗りのための波をつくってくれるうねりは、冬のアリューシャンの嵐がつくり出すものだ。アリューシャンの東、アラスカ湾の沖あたりに一点を定め、そこからノース・ショアにむけて一本の直線をひっぱり、さらに、サンタ・クルーズにむけても、一本の直線を引く。そして、底辺を直線で結べば、完璧に近い正三角形がひとつできあがる、とその友人は言っていた。アリューシャン、ノース・ショア、そしてサンタ・クルーズの三点を直線で結んでこんなにきれいな三角形ができるからには、今日のノース・ショアにできているのとおなじような波が、サンタ・クルーズにもできているはずだ、とその友人は言った。その日ノース・ショアは、空がまっ青で陽ざしの強い、快晴の日だったという。そのノース・ショアからの電話を受けたサンタ・クルーズは、雹をまじえた激しい雨の一日だった。

 ウェット・スーツとサーフ・ボードを持って車で出かけてみると、ノース・ショアの友人が言うとおり、うねりが入っていて、波ができていた。いつものとおり、海は冷たかった。パドル・アウトしていくだけで三半規管はすっかり冷えきってしまった。沖の波のかたちに、秋のはじめに南へくだっていく鯨の群れを思い出し、グレイト・ホワイト・シャークにぱっくりと食いちぎられた友人のサーフボードの、ピンテイルの内部に残っていた一本のシャークの歯のことを思った。

 サンタ・クルーズでいつも使った、潮の満ち引きの時刻がこまかく出ているガイド・ブックを見ていると、ケルプが多いためにできるだけトップの部分をライドしなくてはいけないスティーマー・レインやプレジャー・ポイントの波のパワーを、全身で思い出す。

(『個人的な雑誌2』1988年所収)


▶︎ 今日のリンク |161125| 編集部ブログ| 今日は口数がおおい(その1)|11月電子化作品から|八巻美恵
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片岡義男がハワイ4部作という作品のひとつ『頬よせてホノルル』収録の5作品など、11月の電子化作品について。

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1988年 『個人的な雑誌2』 アメリカ サンタ・クルーズ サーフィン ノース・ショア ハワイ 太平洋
2016年12月5日 05:30
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