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[ロディアのパッド]

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 ロディアのパッドのうち、方眼紙のものすべてをそれぞれ何冊かずつ揃え、大きい順に積み上げてみた。その様子が82ページ〔下〕の写真だ。ロディアの塔、と僕は呼んでいる。いちばん小さいサイズの11番が十何冊かあるので、頂上に向けて細ったこのようなかたちになる。なかなか知的な予感の漂う、端正に美しい塔ではないか。そしてこの美しさのなかに、じつはロディアの謎とも言うべきものが、密かに身を沈めている。

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 この塔を構成している要素は、細長いのを除外すると、七とおりの大きさのパッドだ。11。12。13。14。16。18。19。番号をならべるとこうなる。15と17が抜けている。15は次番のようだが、17は仕様違いで存在している。日本では見かけない。この七とおりのパッドを一冊ずつ、表紙をめくった状態で大きさの順に重ねた光景を、83ページ〔下〕の写真が見せてくれている。塔の状態のときよりもはるかに、ロディアの謎はあらわとなっている。細長いパッドは、なにか短い項目をたくさんリストのようにならべるときに、効果的に使うことができそうだ。横にすると世界は一変する。ほんの数行ずつ、横に書いていくと面白い。縦のときにも、字数の少ない行を横書きで下に向けてつらねていくと、それは詩に近いものとなるのではないか。

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 いちばん小さい11番と、もっとも大きい19番、あるいはそのすぐ下の18番とのあいだには、見てのとおり歴然とした違いがある。11番のパッドは、昔ふうに言うなら、ひと口メモのためのものだ。備忘録あるいは心覚え、といった言葉もかつてあった。そして18と19は、そこに文章を書くのであれば、それは本番の段階のものだと言っていい。したがって18および19そして11とのあいだには、謎はない。

 11と12のサイズには、簡単に言うと、ひとまわりの差しかない。サイズにおけるこのひとまわりだけの差は、そこに書かれる内容における、どのような違いを想定したものなのか。13と14も、おなじくひとまわりしか違わない。13を使わずに14にすることによって、書かれる内容にどんな差異が生じるのか。それから18と19だが、このふたつはほとんどおなじだと言っていい。幅は同一の二十一センチ、そして天地には両者のあいだに二センチの差しかない。この二センチの違いのなかに、いったいなにが想定してあるのか。僕が言うロディアの謎とは、以上のようなことだ。

 14と16とのあいだにも、謎は存分に存在している。両者のサイズはおおざっぱに言ってふたまわり違う。表紙をめくった状態でふたつをならべてみると、何色ともつかない微妙な淡さで印刷した五ミリ方眼の白い面積には、明らかに差がある。必要に応じて使いわける、という面積差だ。そこに書かれていくことがらの、内容における差は、ではどのようなものなのか。

 16を横にして使うと、18そして19の、およそ半分の面積となる。ここにも謎は潜んでいる。そして横にした16は、縦で使う13を横にふたつならべた面積となる。これも謎としてとらえられるべきものだろう。ほんのわずかな面積差の存在。そして横にすると、面積が半分になったり倍になったりする事実。ロディアの謎はこんなふうに要約することもできる。この謎を追っていくと、フランス語という言葉の構造と性能が必然的に導き出す、思考や論理のありかたにまで、到達してしまうのだろうか。おそらくそうだろう、という段階に僕の考えはとどまっている。

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 86ページ上段〔上〕にある写真では、いちばん左に11があり、中央で二冊重なっているのは12と13だ。そして右側の二冊は14と16だ。こうして眺めると、ロディアの謎はさらにひと段階、視覚化されるのではないか、と僕は思う。11の単独的なありかたを、はっきりと視認することができる。11は11なのだ。しかし12と13、そして14と16とのあいだには、深い関係性が隠れている。縦置きの面積として見ている場合の関係性と、横にしたときそこに発生する関係性とでは、まったく別物である可能性が高い。

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 86ページ下段〔上〕の写真は、11番を十二冊日本の春の直射日光とそれが作る影のなかで、オブジェのように撮ったものだ。おなじサイズで少なくとも十二冊あると、それらはオブジェとなり得る。ロディアの11番がこんなふうにたくさんあり、直射光のなかで彫刻作品に化身するのを見るのは、幸せの一種だ。

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2016年11月8日 05:30
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