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[ミードのライティング・タブレット]

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 86-87の見開きページ〔本ページトップ画像〕の写真にあるのは、ミードのライティング・タブレットだ。ライティング・ブロックやライティング・パッドは、ライティング・タブレットとも言う。僕にとって紙の上に真面目に言葉を書く作業の入門は、六インチ×九インチの大きさで百枚ほどが天糊で綴じてある、このようなライティング・タブレットだった。ライティング・タブレットの白いページとその横罫に向き合うと、なにはともあれ自分らしく書こう、という気持ちになる。天糊だからページは簡単にはがれる。そして使い心地はたいへんに良好だ。

 文字、言葉、文章の断片などを、たとえば小説の下準備として書きとめていくための紙として、僕にとってもっとも自由度が高いのは、六×九インチで横罫のライティング・タブレットだ。この紙と向き合うと、なにはともあれ自分らしく書こうという気持ちになる、とたったいま書いたが、なにはともあれ自分らしくとは、もっとも高い自由度にほかならない。

 十年ほど前までは東京の思いがけないところで、ここにこんなものがある、という軽い驚きの気持ちとともに、アメリカ製のいろんなライティング・タブレットを買うことができた。いつのまにか見かけなくなり、いま東京で手に入るのはミードのこれだけだ、と僕は感じている。人々の生活のなかに使いみちも居場所もなければ、それは売れない、したがって仕入れられることはなくなり、その結果として見かけなくなる。

 ライティング・タブレットを求めてハワイの田舎町をたどる、という小さな旅行の可能性について、いま僕は夢想する。いい旅になりそうだ。

 アメリカ製の文房具を東京で見かける機会が減っているような気がする。アメリカは文房具を作らなくなったのではないだろう。アメリカ製のものがほぼかならず持つ、おおざっぱな作りや感触が、日本の人たちの気持ちを遠ざけるのかもしれない。

底本:『なにを買ったの? 文房具。』東京書籍 2009年

11月11日刊行! 『万年筆インク紙』

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自分の思考が文字となって紙の上に形をなす。
頭の中にうかんだ小説のアイディアをメモするための万年筆、
自分の思考をもっとも良く引き出してくれるインクの色、
そして相性のいいノートブックとは──。

作家・片岡義男が道具から「書く」という仕事の根幹について考えた
刺激的な書き下ろしエッセイ。


晶文社|ISBN:978-4-7949-6939-2 C0095|定価:本体1800円+税|四六判変型|288頁

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2009年 『なにを買ったの? 文房具』 アメリカ ミード ライティング・タブレット 文房具 書く 道具
2016年11月5日 05:30
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