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バス・ルート

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 東京のなかでぼくが好きなのは、東京湾岸の一帯だと、何度もくりかえして書いてきた。湾岸一帯のほかには好きな場所がないので、今度はなにについて書けばいいか、かなり迷った。東京の、すくなくとも二十三区にさながら網をかけるようなかたちでそのぜんたいをとりあえず網羅的にとらえる方法はないだろうかと考えていて、ぼくはバスに思いいたった。東京二十三区のバス・ルートのすべてを知れば、二十三区のぜんたいをかなり詳しく知ることにつながるのではないだろうかとぼくは仮説を立てた。

 東京のバス・ルートの地図帳が二冊、ぼくの手もとにあった。東京のバス・ルートは、運行系統数が千三百をこえていて、停留場の数は五千五百以上になるという。東京の上には、バス・ルートという網の目が、確かにかぶさっている。これだけ複雑な網の目を、わかりやすく地図帳にするのは、至難の業だ。ルートのひとつひとつを、一ページずつ地図にしていけばもっともわかりやすいのだが、そうすると千何百ページにもなってしまう。ぼくの手もとにあった二冊のルート・マップのうち、一冊は、わかりやすくしようとしてほどこした工夫がうまく機能していず、逆にわかりにくくなっていて、実用的ではなかった。もう一冊もわかりやすいとはいえないが、必要なインフォメーションを素早くとり出すことは出来るようになっていた。

 東京のバス・ルートの地図帳を一時間以上にわたって「読書」して、ぼくはかなりの感銘を手にした。東京は、バスの街だ。東京のあちこちをただ見るということのほかになんの用もない状態で、千三百をこえるルートのひとつひとつに乗ってみたら、これは相当に面白いはずだ。これほどバスがたくさん走っている街は、世界に類がない。魅力的であるかどうかは別にして、バス・ルートは東京にとってきわめて特徴的なものだということは、断言してもいいようだ。

(『個人的な雑誌2』1987年所収)

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1987年 『個人的な雑誌2』 バス 地図 東京 自動車
2016年9月20日 05:30
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