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評論・エッセイ

悲しき雨音

 雨が降っている。九月の終わりの、何曜日だろう。何曜日でもいい。雨の日なのに、空気はとてもさらっとしている。秋だ、さすがに。空気が、肌にとても心地よい。
 雨の香りがしている。
 午後だ。何時ごろだろう。何時でもいい。午後の時間はすでにとっくにはじまっているけれど、まだ夕暮れには時間がある。時間の経過がとてもゆるやかになったように思える、雨の日の午後。
 そして、九月の終わり。
 なぜ、空気がこんなにさらっとしていて、気持いいのだろう。夏のさかりの、粘った暑い日の記憶が、肌のなか…

底本:『アップル・サイダーと彼女』角川文庫 1979年

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