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エッセイ

お月さまはベルベット

 五月のゴールデン・ウィークがはじまるまえの日に、友人が遊びにきた。友人は、オートバイで、やってきた。たまたま庭に出ていたぼくは、下の私道に入りこんでくる彼のオートバイの排気音を聴いた。排気音は、ぼくの家の階段の下で、とまった。
 友人たちが乗っているオートバイの排気音は、みんな知っている。音を聴けば、誰が遊びにきたか、だいたいわかる。庭に出ていたぼくが聴いた排気音は、友人のオートバイとしては、はじめてのものだった。4サイクル二気筒を、おとなしくおさえた音だ。
 誰がきたのかと思って、ぼくは階段のうえに出て…

底本:片岡義男エッセイ・コレクション『彼の後輪が滑った』太田出版 1996年
『コーヒーもう一杯』角川文庫 1980年所収

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