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エッセイ

忘れがたき故郷

 二〇〇〇年の残暑の日、僕はここにある九点の写真を撮った。九点のうち七点までは、東京の世田谷のとある一角でのものだ。残る二点はおなじ東京の別の場所で撮った。東京を生地とする僕にとって、この九点の写真を撮った場所は、故郷という言葉のもっとも一般的な意味において、故郷と呼ぶほかない場所だ。どちらの場所にも、それぞれ四半世紀以上にわたって、僕は住んだ。
 兎を追うとかいう山は関係ない、小鮒を釣る小川とも無縁だ。しかしこの故郷を僕もまた忘れがたいとするなら、忘れがたさは電柱によって作られている。僕の故郷のいたるところに、コンクリ…

底本:『東京22章──東京は被写体の宝庫だ。』朝日出版社 2000年

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