今日は口数がおおい(その8)|42冊を発売しました

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小説42冊を発売しました。
今月のラインアップで目を惹くのは映画についての小説がいくつかあることです。

まず「雨の柴又慕情」というタイトルからはすぐに、あの寅さんの映画が思い起こされます。作家の僕と日本語の本を書こうとしている金髪のエル・マクファスンが台風のために箱根のホテルに閉じ込められてしまいます。そして偶然その同じホテルに滞在していた僕の妹の芙美子と彼女の友人である星ノ木レイナとばったり会います。星ノ木レイナは本当は男で大工なのですが、ふだんは女の服装をしていて女の言葉を話します。ジェンダーの枠を超える登場人物です。その四人が台風の日の午後をやりすごすために、ホテルの部屋で「男はつらいよ 柴又慕情」のヴィデオを借りて観て、感想を述べあうという構造です。感想はそれぞれの立場からの映画論であり、日本論であり、日本語論でもあります。おしまいのほうでは、寅さんはコスモポリタンだという結論が示されて、青い目のマドンナの候補もあげられていて楽しいです。

OR_333_雨の柴又慕情
※本の表紙をクリックすると[試し読みから → 購入まで]できます

「雨の柴又慕情」のなかで、小津安二郎が寅さんを撮ったらどうなるかという興味深い会話が少し出てきますが、「紀子が三人いた夏」は小津安二郎の名作「晩春」「麦秋」「東京物語」の三本の映画で原節子が演じたどれも紀子という名前の若い女性をめぐってのほぼ会話による小説です。会話をするのは「雨の柴又慕情」に登場した作家の僕とエル・マクファスンのふたりです。真夏に東京から京都、尾道などと移動しては紀子について話し合うのです。小説というかたちをしていますが、これは「雨の柴又慕情」よりずっと過激な、小説というかたちをかりた映画論であり、日本論であり、日本語論です。小津の映画についてはこれまで誰も指摘したことのない視点が示されます。片岡さんが日本について会話で論じ尽くすというかたちをとるとき、ひとりが日本人の男性なら、相手は金髪で青い目の女性であることが必要なのかもしれません。「緑の瞳とズーム・レンズ」を思い出してください。

OR_354_紀子が三人いた夏 緑の瞳とズーム・レンズ

「雨の柴又慕情」と「紀子が三人いた夏」の間に書かれた長編小説「最愛の人たちにも小津の「東京物語」が魅力的に出てきます。ひとりは写真家、ひとりは小説家として活躍しているふたりの男性にそれぞれの最愛の人が加わってのストーリーは、小説らしいアイディアに彩られています。たとえば、「東京物語」がリメイクされていて、紀子を演じた女優は林芙美子という、どこかで聞いたことのある名前の人です。写真家が小説家に提案します。「原節子を林芙美子に置き換えた上で、『東京物語』や『晩春』そして『麦秋』などを、自分の小説として書き直してみたらどうだ」と。現実にそういう小説があったらおもしろそうですね。

OR_351_最愛の人たち

1994年には「彼女が演じた役 原節子の戦後主演作を見て考える」が出版されていることも付け加えておきたいと思います。

もうひとつ、忘れがたい小品に「いなくなりたい」があります。「ほんとに、不思議。私。あるいは、時間」と考え続ける14歳の少女ホミの将来の希望は次のようなものです。
「いなくなりたい」です。
とは言っても、死ぬということではありません。
私はこれまでずっと、自分の家にいました。そこが私にとっての自分の場所であり、いつも私はそこにいるのですが、そこに私はもういなくて、どこにいるのか誰にもわからないように、なってみたいのです」
14歳のホミの未来はそのまま「道順は彼女に訊く」につながっていきます。突然失踪してそれきりいなくなってしまった25歳の後藤美代子についての物語は8月に発売の予定です、楽しみにしていてください。長編です。

OR_362_いなくなりたい


八巻美恵@編集部

 

2017年6月23日 00:00