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書評

一度だけ読んだハメット

 僕はハメットを一度だけ読んだことがある。短編をひとつ、しかも翻訳された日本語で。それはいまから二十八、九年も前のことだ。『マンハント』というアメリカの雑誌の日本語版が毎月刊行されていて、その頃の僕はおそらくその雑誌に雑文を書いていた。だからその雑誌は僕の部屋にいつも何冊かあり、ある日あるとき、ふと手に取ったその雑誌に掲載されていたハメットの短編を、なぜだかわからないが読み始め、最後まで読んで僕は感銘を受けた。
 原題は確か『ホリデイ』(休日、邦訳は創元推理文庫〔稲葉明雄訳〕)だったと思う。あるいは、それにごく近い言葉に…

底本:片岡義男エッセイ・コレクション『本を読む人』太田出版 1995年

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